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モフオフのあとしまつ−5話

ライター:ブロイラー


昼間は暖かい天候だったとはいえ、流石に朝は冷え込んで吐く息も白い。
チェックアウトを済ませて、ホテルの前でsevencatsさんの車を待つ。
人口の割に飲み屋が異常に多い北見の町並は眩しい朝陽に照らされていた。
ぼんやり待っていると、それらしき車が見え、ホテルの前で止まった。
ホンダ・ライフの窓から覗く表情からsevencatsさんだとわかった。

 「はじめまして、○○です。」

sevencatsさんはウェブでの文章や、声から想像していた通りの素朴ですごく上品な感じの人だった。
まず、向かったのはチヌケップ湖。全く観光地化されておらず、手付かずの自然が残る。
湖の近くの森でsevencatsさんは車を止めた。
エンジン音が切れるとしんと静寂に包まれ、耳を澄ますと遠くで鳥の鳴き声がした。
湖は青く澄み、湖畔の様子は写真で見たカナダの風景のようだった。
sevencatsさんはご主人とここでカヌーをしたらしい。sevencatsさんが湖をバックに写真を撮ってくれたが、
撮られ慣れていないのでどんな表情をしてよいかわからず、ひどくぎこちない表情になった。

さらに車を飛ばしアエプに向かう。
途中、道路に蛙が飛び出してきて平面ガエルにしてしまった。
sevencatsさんはハンドルを握りながら、可哀想なことをしたとひどく落ち込んでいた。
この人は人の悪意を信じられないんじゃないか、と思うほどいい人だった。
シゲチャンランドのサイトを立ち上げるきっかけをうかがってみると、
東京でモスモスの表紙を作っていた頃の大西さんは知らず、
大西さんが北海道に移住してから知人の関係で知り合ったらしい。
その作品に魅せられ、sevencatsさんからサイトを作らせて下さい、とお願いしたという。
この日は今後のサイト運営の打ち合わせでランドに行く予定だったのだ。
本当にシゲチャンランドのWEBサイトは本当にマジメに運営されている(某まねまねサイトと違って)。

アエプは人里離れた国道沿いにある。ここのパンは非常に評判が良く、
僻地にもかかわらず朝のうちに行かないと売り切れてしまうほどの売れ行きだという。
車を止め、中に入る。
なるほど、確かに流行っているようで客が次々と入り、ご主人と奥さんは忙しそうにしている。
チャンスがあれば増田さんにお話を伺おうかと思っていたが、無理そうだ。

とにかく評判のパンをいただこうと雑穀パンを買う。お話はできないかもしれないが、
お土産に京都のちりめん山椒を持ってきたのでそれだけでも差し上げておこうと声をかけてみる。

 「あの・・・増田秀夫さんですよね?」
 「・・・はい、そうですが。」

増田さんはキョトンとした顔で返事をされた(当たり前だ)。

 「モスモスのファンサイトやっている者なんです。」
 「あー、そうなんですか。」
 「写真拝見してます。モスモスとか『もりのおもいでばなし』とか。」

増田さんは「タハッ、昔の話ですよ。」と照れくさそうな顔をした。
 「これ、つまらないものですけど」とお土産を渡すと奥さんが丁寧に受け取られて、
 「まぁ、座って下さい」とコーヒーを出していただいた。

コーヒーをいただきながら店の様子を眺めていると、パンは次々と売り切れていき、
10時から開店なのに11時半にはもう棚が空になった。先ほどまで賑わっていた客が引き、
増田さんは大きな木の板で出来た閉店の看板を出してきて、入り口の前に立てかけた。

店を閉めてしまわれるとブロイラーのためにわざわざ話をして下さった。
店に来る人の多くは知らないかもしれないが、増田さんは広告関係を中心に
第一線で仕事をされていたカメラマンだった。モスモスでも写真を撮っていた。
大西重成さん、藤原大作さんとの共作「もりのおもいでばなし」という絵本
(というか写真本)はじんと心にしみわたる素晴らしいものだ。
家族とのんびりと生活をできる場所を求め、北海道は津別町にやってきた。ここで何をするか。
増田さんは以前仕事で行ったトルコでパンを焼く石釜を思い出し、奥さんもイタリアで見た石釜を思い出した。
因縁に導かれるように石釜でパンを焼く、ということを思いつく。
神戸のあるパン屋から石釜作りのノウハウから学び、今日の店に繋がる。
人が何かを始める過程というのは不思議なものだ。
そういえば、モスモスの一読者だった自分が何の因果か北海道に導かれ
こういうところで増田さんと話しているのも不思議な感じがする。

しかし、増田さんはあまり自分のことを多く語ろうとはしない。
モスモスで写真を撮っておられた頃のことを聞こうと思っていたが、
 「俺のことはいいんだよー」と恥ずかしそうな顔をする。
そのかわりに双子の娘さんの話をずっとしていた。
今は中学生になる娘さんが小学生の時に図工の時間に作ったオブジェが店に飾ってある。
あまりに洗練された出来なので当初子供が作ったものには思えなかったのだが、
こちらがそれを言う前に増田さんから自慢していた。

 「この色遣い、すごいだろー!俺何にも教えてないんだよ。」

増田さん夫妻はヘビー級の親バカ夫婦らしく、結局8割方娘さんの話に終始した。

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