コラム

HOME

物言わぬ雄弁者の群れ〜シゲチャンランド〜(2)

ライター:ねこん


 「いらっしゃい」

そこには蛍光オレンジ色の迷彩柄のジャケットに
ベースボールキャップの大西重成氏がいた。
頭の中の勝手な想像がランドに漂っていた霧のように霧散して真っ白になる…
 「え…あ…まだ、チケット買ってないです…」
 「お帰りでけっこうですから、ゆっくりしていって下さい」
どこからか大西さんを呼ぶ声。(ココさん)
「ちょっと失礼」小走りに呼ぶ方へ向かう氏をしばし見送って、
横のノーズハウス入口にかかる暖簾を掻き分ける。

シャラシャラと音を立てて闇が広がり、中から「空」な視線を感じる。
そのフロアを垣間見て、何となく「やられた」という気がした。
奥へ進んで「こいつら」一人ひとりを鑑賞する。と言うより対面に近い。
頭の中には「わぁ〜」という言葉しか浮かんでこない。
向こうもポカンと口を開けた、こちらのアホ面を覗き込んでくる。

忘れていたことを思い出した。
「車に家族を待たせてた…。」すでに15分は経っている…
慌てて車に戻って妻子を起こして「すごい!すごいって!」ばかりを言いながら
正に「寝た子を起こす」行為でランド内へ連れ込んだ…

ランドでは皆、子どもになる。
というより大人でいることが難しくなる。
まず、視界が子どもの目線になっていることに気が付く。
巷の美術館やギャラリーが大人目線でかけられているのに対し、
「シゲチャンランド」は足元から真上までいろんな「やつらが」ウロチョロしている。

壁はもちろん、屋根の上、天井、梁の上や間、表に転がってるやつ、
洗濯物みたいにぶら下がってゆらゆらしてるやつ、
行く度にあちこちにウロウロしてるやつ…
何気なく歩を進むと、うっかりふんずけてしまうかもしれない。
各ハウスを巡るとウンチクだの哲学だの歴史だの知識だの…
そんなもの、どうでも良い気持ちになって…。


子どもたちが奇声をあげてノーズハウスの梁の上を走っていく
ティースハウスに入ろうとする
イヤーハウスの回廊(?)をゼーぜー言いながら回っている
アイハウスの連中に「これー!」とか言いながら『もりのおもいでばなし』の絵本を見せている…


一緒になって大人気ない世界に埋もれてしまいたいのだが、
社会人生活が長いので自制心と羞恥心でなんとか押さえつける。これが一苦労。

 『心の中に引出しが沢山ある大人は大変ですね。
  ひとつ開けるのにも手順が面倒そうで…
  子どもは大きな玩具箱ひとつ、なんでも入ってすぐ取り出せる…』
それを言ったのはヘッドハウスの「あいつ」だったかな…

おや?自分は「こいつら」を見にきたのか?見られにきたのか?
こちらへの視線に気が付くと笑っているやつ、不思議そうな顔のやつ…
そう、我々は見られていたのです。

さて、前出の寝起きの子どもたち…
次男は動物園か秘密基地に来て感性に火がついたか、
まだ歩みの定まらない歳なのに落ち着き無く歩き回り、
すぐさま視界から消えていき、他のハウス間を行ったり来たり…
やっと戻って「ここは、なんてところ?」と聞かれる。
「シゲチャンランドって言うんだよ」と教えると
「ウォ〜チェケラントー!!」と叫びながらまた、何処かに…


長男の方は、かなり寝起きが悪いらしくノーズハウス内を
お気に入りのタオルを抱いてチョボチョボ歩いていたが、
急に立ち止まって大粒の涙をボロボロ…
「怖いよ〜」の言葉と共に号泣しだした。

ハウスの何処からか「あ〜またやっちまったよ…」というような
囁きが聞こえたような気がした。

戻る<< >>進む


コラムTOP


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送